I think, therefore I am

思ったことを徒然に綴っていきます。多分、時事ネタ、技術ネタ、自己啓発ネタなど。

自動運転の事故の賠償責任について思った

 

自動運転の事故は所有者に賠償責任?

 平成30年3月31日付の日経新聞朝刊で、「自動運転の事故、所有者に賠償責任 政府方針、ハッキング被害は救済」という記事が掲載されていた。インパクトあったので、元ネタを追ってみた。


同記事では『30日の未来投資会議で「自動運転にかかわる制度整備大綱」を示した。』とあり、この未来投資会議というものの情報は官邸サイトの以下リンクにあった。

www.kantei.go.jp

 

がこれだけ読んでも、どこに「所有者に賠償責任を課す」議論があったのか、よくわからない。このサイトのなかでの首相の発言に

『本日、自動運転の事業化を可能とするため安全基準や交通ルールなど制度整備の方向性を示す大綱を松山大臣に取りまとめていただきました。』

とある。それらしき資料は以下のリンクにある。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/dai14/siryou7.pdf

 その中に「自動運転に係る制度整備大綱(概要)」というスライドがあり、その中に、今後の取り組み事項の一つとして以下の記載があった。

■責任関係
⑦万一の事故の際にも迅速な被害者救済を実現
⑧関係主体に期待される役割や義務を明確化し、刑事責任を検討
⑨走行記録装置の義務化の検討

 しかしこの記述からどう解釈すれば「所有者に賠償責任を課す」になるのかわからない。で、調べてみると、自動運転の賠償責任に関しては、国土交通省の傘下の「自動運転における損害賠償責任に関する研究会」というところで議論されているらしい。この研究会の報告書は以下にあった。

http://www.mlit.go.jp/common/001226452.pdf

 日経新聞の記事の内容に近いことが、この報告書に書かれている。どうも「所有者に賠償責任を課す」という方針の出元はこの報告書のように思うのだが、この報告書で示す方針が、そのまま政府方針として採用されたという事実までは追うことができなかった。

 なのでこの日経新聞の記事を、あたかも政府で方針決定したかのように受け止めてよいのかどうか結局よくわからない。だが自動運転であっても、従来の自賠責保険の考え方が適用され、運行供用者責任(=所有者)が維持されるという方向には進みそうだ。

 

ハッキングによる事故≒盗難車による事故?

 この報告書で興味深いのは、ハッキング等によって、所有者とは全く無関係な第三者が所有者に無断で車を運転するような事態において事故が起きた場合、盗難車による事故と同じ扱いで、自賠責保険によって政府保障により損失が補填されるべき、との提言だ。
 ただし、盗難による事故であっても所有者の過失が問われる事例もあるらしい。以下は報告書の抜粋である。

『盗難車による事故の場合であっても、例えば、路上や第三者が自由に立ち入ることが可能な場所に長時間にわたってエンジンキーを差し込んだまま駐車していた等の場合には、第三者による運転についての保有者の客観的容認又は保有者の管理責任違反があったと認められ、保有者が運行供用者責任を負う』

まあ盗難に関しては、それはそうだろう。で、この一文には以下の続きがある。

『この点、ハッキングに関しても、例えば、自動車の保有者等が必要なセキュリティ上の対策を講じておらず、保守点検義務違反が認められる場合には、盗難車による事故の場合にも保有者の運行供用者責任が認められる上記の場合と同様に、保有者の運行供用者責任が認められることになる可能性がある。』

 つまり、セキュリティ対策が不十分であった場合、車にキーを差し込んだまま駐車していたと同じような無防備な状態にしたと解釈され、所有者の管理責任違反が問われる可能性があるということだ。

 

 システムアップデートが遅れて事故ったら所有者責任?

 これは怖い。。。。セキュリティホールが発見され、その対策ソフトの更新が遅れ、そこからハッキングされて事故が起きた場合は、自賠責で保障されない可能性があるということだ。

 PCやスマホのように自動アップデートがかかる仕組みにはなるのだろうが、私みたいな週末ドライバや、電波の届きにくいようなところに長期間いたような場合にはアップデートが遅れ、その隙をつかれてハッキングされて事故が起きた場合には、所有者に賠償責任がいく可能性があるということだ。

 20年以上前にWindowsパソコンが登場し、さらに今ではスマホが爆発的に普及してきているが、今でもそのシステム更新がどれだけ迅速に行われるかはかなり疑問だ。セキュリティホールをついたウィルス攻撃と、その対策とのいたちごっこの状況が自動運転でも起きるかと思うとぞっとする。将来、自動運転技術をより必要とする高齢者に対してシステムアップデートの責任を問えるのだろうか。

 

 自動運転を享受するには高い責任能力が必要そう

 こうした法制度的な議論をみると、一般ドライバが自動運転(レベル3以上のドライバが手放しできるレベル)を享受することにはやはり高い壁を感じずにはいられない。誰だって責任とれないものには手を出したくない。どんなに優れた技術であっても人間社会での責任までを置き換えることは不可能だ。

 やはり物流やタクシー、バスなどの事業者など、高い責任能力をもつ者でなければ自動運転を導入するのは難しいと思う。